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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)354号 判決 1954年1月21日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一点 論旨は、裁決はその形式方法において判決に類似しているけれども、一つの行政処分であるから、違法があれば裁決庁自らにおいて取消すことができると解すべきだと主張する。しかし、本件裁決は、中川原村農地委員会が立てた農地の買収計画に対し被上告人が申立てた異議の却下決定に対し、一旦なされた被上告人の主張を認める裁決を取消したものである。この裁決が行政処分であることは言うまでもないが、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものである。憲法七六条二項後段によれば、「行政機関は、終審として裁判を行うことができない」のであつて、終審としては、裁判所が裁判を行うが、行政機関をして前審として裁判を行わしめることは、何等差支えないのである。本件裁決のごときは、行政機関である上告人が実質的には裁判を行つているのであるが、行政機関がするのであるから行政処分に属するわけである。かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異り、特別の規定がない限り、原判決のいうように裁決庁自らにおいて取消すことはできないと解するを相当とする。それ故、原判決には所論の違法がない。

第二点 所論の農地調整法一五条の二八の規定は、行政機関に裁決を取消す権限を認めた前記特別の規定に該当するものであつて、所論のごとく裁決庁に自ら取消す権限を与えたことを前提とする規定であるということはできない。論旨は採るを得ない。

第三点 所論の事実誤認は、上告人の十分な現地調査を欠いたことによる単なる事実誤認であつて、これを以て裁決庁の裁決の自己取消を是認するに足る場合とは考えられない。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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